霧にむせぶ森の奥深くで、私はこれが夢だと気付いた。
足元から細い糸のようなものが地中に延びていて、そのずっと下の方に、眠ったままの私の身体があるようだ。眼を覚まさなければと思うけれど、夢の中の大気はおそろしく密度が濃く、寒い冬の蜂蜜みたいに、私の魂を森の中に固定させている。
ほんの少し、身体を動かすことさえ出来れば、目覚めることができるに違いないのに。私は力任せにじたばたしてみる。地の底から暗く響く声がする。まぁ大変、ロープが切れてしまいそうよ。先生、先生、早くいらして。
ああ、あれは姉さんの声だ。僕は蜂蜜の森の中、少しずつ濃くなる霧の匂いを、どこかつんと腥いその匂いを、いっぱいに嗅ぐ。